商売がうまくない人はヒトの欲望をわかってない 世界のマーケターはなぜ「本能」に注目するのか

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マーケティングで消費動向を研究するマーケターたち
ヒットメーカーほど、数字の裏に隠れたヒトの欲望を深く理解しているのです(イラスト:そめやあい/PIXTA)

「顧客理解」「消費者理解」「個客インサイト」…。顧客や消費者、生活者を理解しようという試みはマーケターにとって永遠のテーマですが、ヒットを連発するトップマーケターほど、「ヒトの欲望」を深く理解していると言えます。

例えば、刀・代表取締役CEOの森岡毅さんは、誰もが知るトップマーケターの1人ですが、「消費者理解とは、人間の本能と行動の相関を解き明かすこと」と述べられています。

森岡さんは「人間の本能を理解すること」が消費者を理解することであり、ヒトの本能は太古の昔から変わっていないとされます。この考え方は森岡さんだけにとどまらず、アメリカの名だたる企業も同様のアプローチをしているのです。

「進化論マーケティング」の登場

ヒトの欲望を理論化した研究は古くから行われており、信頼を求める欲求を掘り下げたエリクソン、自己実現のモチベーションに特化したロジャース、社会的ニーズに焦点を当てたフィスクなど無数に存在します。

そこで登場したのが、「進化論マーケティング」 です。拙著『ヒトが持つ8つの本能に刺さる 進化論マーケティング』でも詳しく解説していますが、名前のとおり、進化論をビジネスに応用した学問で、2000年代にコンコルディア大学のガド・サアドが基本的なコンセプトを提唱。それ以降はアリゾナ州立大学やコーネル大学の経営学部チームなども調査をはじめ、近年ではアップルやマッキンゼー、フライトセンターといった企業も経営手法の1つに採用するまでの成長を見せています。

かくも名だたる組織が注目する「進化論マーケティング」とは、いかなる手法なのでしょうか?

「進化論マーケティング」を説明する前に、前提となる 「進化論」 を軽くおさらいしておきましょう。ダーウィンが提唱した進化論では、すべての生物は祖先が暮らした原始の環境に適応して肉体が変化し、そこで生まれた特徴は、現代を生きる私たちにも受け継がれていると考えます。

一見すると、現代のユーザーが望む商品は、人間の本能とは関係がない印象を受けます。

サバンナで暮らしたホモサピエンスはコンビニやデパートで買い物をしていたわけではなく、プリウスかポルシェを買うべきかどうかで迷ったはずもなく、SNSに上げる自撮り写真に気を病む必要もなく、郊外に広い持ち家を買うのか、それとも都心の手狭なアパートを借りるかどうかで悩むこともありませんでした。

いずれも原始の環境とは差がありすぎるため、現代人の消費とは何ら関係がないように思えるでしょう。

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