「結論ありき」プロジェクトが大抵失敗する理由 夢の自宅改築が悲劇になった夫婦の計画から学ぶこと

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また、どうせ地下を工事するのだから、地下に降りる階段を動かして、小さい洗濯・乾燥室をつくったらどうだろう? 「そんなわけで、新しい設計が行われ、新しい図面が引かれ、さらに遅れが出た」。そして新しい計画を立てるたび、複雑で悪名高いニューヨークの役所に申請手続きをする必要があった。

どの変更も無謀ではなく、気まぐれでもなかった。1つひとつが理に適っていた。そして1つの変更が別の変更を呼んだ。だが界隈の不動産価格は上昇していたから、いつか住まいを売れば、リフォーム代金の少なくとも一部は回収できそうだった。

プロジェクトはこうしてキッチンから断片的にどんどん広がり、ついには1階全体を完全に取り壊して再設計し、総入れ替えをすることになった。

どこからどう見ても災難だった

だが話はそこで終わらない。2階のメインのバスルームは悪趣味な上にカビていた。せっかく仮住まいに移り、業者に来てもらっているのだから、ついでにここも直してもらえば、将来的にやり直す手間が省けるわよ、とデイヴィッドの母親は勧めた。たしかにその通りだ。この変更も別の変更を、そしてまた別の変更を呼んだ。結局2階全体も完全に取り壊し、再設計、総入れ替えをした。

「17万ドルの予定が40万ドルになり、60万ドル、そして70万ドルになった」。リフォームの最終的な総コストはおよそ80万ドルだったとデイヴィッドは言う。この莫大な金額を賄うために、デイヴィッドは引退を先延ばしにせざるを得ないだろう。しかも、この金額には仮住まいの費用は入っていない。当初の予定は3カ月だったが、デイヴィッドとデボラがリフォーム後の家に戻ったのは、1年半も後のことだった。

リフォームはついに完成し、全面リフォームのできばえには誰もが目を見張った。だが夫妻にとって、それは小さな慰めでしかなかった。もし最初から全面リフォームを計画していたら、設計も市への申請も一度ですんだし、業者は最も効率的な順番で作業を進められただろう。そしてお金と時間、心労の代償は、デイヴィッドとデボラが実際に払ったよりずっと少なくすんだはずだ。

プロジェクトはどこからどう見ても災難でしかなかった。

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