ウクライナが奪還作戦実行で感じた「手応え」 「われわれに必要なのは助言ではない。弾薬だ」

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2023年7月末、キーウでは軍事面での最大のスポンサーであるアメリカから、紛争凍結の一環として、領土面でのロシアへの譲歩を押し付けられるのではないか、との警戒心が高まっていた。

前ウクライナ大統領府長官顧問オレクシー・アレストビッチ氏は当時、ウクライナが全土の約80%、ロシアが東部約20%を占有する形でほぼ現状のまま停戦合意し、その見返りとして、ウクライナのNATO加盟を認めるとの妥協を強いられる可能性に言及していた。

「ワシントンは見捨てなかった」

しかし、アレストビッチ氏も今回の協議結果を受け、「ワシントンはわれわれを見捨てなかった」とSNS上で安どの表情を浮かべた。

アメリカ側が折れた背景には、ちょうど連続交渉の頃から反攻作戦が徐々に動き始めたこともある。ウクライナの軍事筋が2023年9月初めに明らかにしたところによると、ウクライナ軍はザポリージャ州の交通の要衝トクマクに向け、大きく前進した。

反攻開始以降、ロシア軍は戦車壕、「竜の歯」と呼ばれる戦車阻止用障害物、広大な地雷原からなる複数の防衛線を張り巡らせて、ウクライナ軍の進軍を阻んできた。

しかしウクライナ軍はすでに第1、第2の防御線を突破したという。防御線突破のコツをつかんできたからだ。まず戦車が地雷原に近付き、この間に工兵部隊が地雷の撤去をうまく進めることができるようになった。

アメリカが供与に踏み切ったクラスター(集束)弾も効果をあげている。温度センサーの付いた偵察用無人機(ドローン)を使って地雷が発する熱を頼りに敷設場所を特定し、クラスター弾で一気に広い地域の地雷原を吹き飛ばす作戦が奏効している。

仮にトクマクを攻略しても、さらに約50キロメートル南にあるメリトポリまでには、第3、第4の防御線があるが、第1防衛線と比べると防御力は落ちるという。地雷原はあるものの、ロシア軍が部隊を防御線に張り付けていないからだ。このため、今後の進軍はより容易になるとウクライナ軍はみている。

反攻の見通しに悲観的になっていたバイデン政権の見方も変わってきた。アメリカ国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官も2023年9月1日、ザポリージャ州での反転攻勢で「注目すべき進展があった」と指摘したほどだ。

NATOのストルテンベルグ事務総長も2023年8月末、アメリカCNNテレビとのインタビューで「ウクライナはわれわれの期待を上回っている。ウクライナを信用すべきだ」と述べた。

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