金融庁の報告書が実はとんでもない軽挙のワケ 年金制度改革の努力を台なしにしかねない

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その後、2016年には、主にオプションⅠのマクロ経済スライドの見直しが進められた。そして、今年の2019年財政検証では、オプションⅠからⅢに沿って、将来の給付水準を上げるための施策が試算されるであろうし、その方向に沿って、基礎年金の給付水準を上げるためにも一層の適用拡大を進める必要があり、年金受給の弾力化と被保険者期間の延長を求めて政策努力が展開されることになる。そしてそれを来年の年金改革で実行たらしめるために、すでに準備が何年もかけて行われてきていたわけである。

そうであるのに、金融庁が財務省に、つみたてNISAの恒久化を求める陳情をするために、現在進められている公的年金の改革、その周辺の働き方をはじめとしたさまざまな改革をまったく無視した報告書を出してきた。公的年金というのは、あおれば政局を作りやすい「将来不安」と関わるために、野党もメディアもつねに手ぐすねを引いて構えている極めてセンシティブな問題である。

慎重のうえに慎重を重ねて、揚げ足を取られないように細心の注意を払いながら事を進めなければならないのに、金融庁にはそうした配慮はまったくなく、野党やメディアに揚げ足を取られて炎上した。ここで説明した一連の動きを関わり知る年金の専門家が金融庁市場WGにいなかったことが一因だったと思われる。

願わくば、公的年金に寄せられるこのエネルギーを、1人でも多くの人に適用拡大を進める方向に収斂させ、そして、いずれは、基礎年金の給付水準を上げるために最も有効な方法である、被保険者期間を20歳から59歳までではなく、64歳までの45年に延長する改革を、たとえ国費1兆数千億円が必要であるとしても実現するために、年金に向けられるこのエネルギーを活かすことはできないかと思っていたりもする。

適用拡大については、自民党は「勤労者皆社会保険制度」と呼んでおり、骨太2019の中に「勤労者が広く被用者保険でカバーされる勤労者皆社会保険制度の実現を目指して検討を行う」と書き込まれるところまで来ている。ぜひ、積極的に進めてもらいたい。

ちなみに、私は、Basic IncomeをBIと呼ぶのならば、それよりも相当の長所をもち社会保障給付の約9割を占める社会保険Social InsuranceをSIと呼んで「勤労者皆SI」という呼び名で広まったほうがいいと思っており、今年の3月に同党の「人生100年時代戦略本部」で“BIよりもSIを”と話してきた。

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